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Biological Stories 7


第7回 多細胞生物の死は仕組まれた運命 

(第4回)細胞の老化

 先週は個体の老化について少しお話ししました。
 年をとって体が弱り、シワが増え白髪になる。一般的に老化とは、寿命が近い個体に起こるこういう現象として捉えてられていると思います。
 個体よりもう少しミクロな観点に立って、たとえば高齢者から臓器の一部を取り出して組織学的に調べてみますと、臓器は弾力性を失ったり、萎縮していたり、独特の斑点が現れていたりして、明らかに若いときと比べて変質していることがわかります。
 しかし、視点をさらにミクロな細胞レベルにすると今度はほとんど差が分からなくなってしまいます。よほどの熟練者でなければ若齢者との差を見つけるのは難しいでしょう。
 
 細胞の老化 

 何年か前のセンター試験(生物IB)に「細胞の老化」が出題されたことがあります。この「細胞の老化」とは一体いかなる現象を指すのでしょうか。

実はこの単語は教科書に載っておらず高校では扱いませんが、大学レベルでははっきりと「正常組織の細胞を培養すると、細胞分裂がある回数に達した時点で分裂をやめる」事であると定義されています。
要するに、「細胞には何度も分裂する能力があるけれど、その分裂の回数は決して無限でない。よってたくさん分裂した細胞はそのうちに分裂できなくなる」ということです。
 
 ところで個体の寿命は、細胞の寿命と関係があるのでしょうか?
 
 第5回で個体を構成する細胞は単独では生きていくことは出来ないということをお話しました。しかし、体外へ細胞をとり出した場合でも、人工的に体内(というか体液中)にあるのと似たような条件を作れば生存が可能であることが示されました。
 そして、そのように細胞を人工的に生存させるシステムを細胞培養系といいます。
 この培養系では通常、細胞を生存させ続けることは出来ても増殖させることは不可能だったのですが、培養液にウシ胎児の血清などを混ぜることで増殖させることができるようになりました。
 
 この細胞培養のシステムが確立したばかりの1900年代中ごろまでは、培養できる細胞は無限に生きると考えられていました。
 この認識が誤りであることをはっきりと示したのがヘイフリックです。
 
 ヘイフリック限界 

 ヒト線維芽細胞を生体から取り出して培養すると、細胞分裂あるいは染色体複製に応じて一定の分裂を起こすと分裂が停止します。
 
 ヒトの胎児肺からえた正常細胞は、50±10回分裂すると分裂できなくなりました。
 (分裂できなくなったあと即死亡するのではなく、半年やそこらは生存します)
 それに対して、大人から取り出した細胞で同様の実験を行った場合、それより少ない回数しか分裂できない(その分だけ寿命は短いことになる)ことが明らかにされました。
 
 年齢別 に細胞分裂のペースを比較すると、若い人の細胞ほど分裂できる回数が多く、その分だけ長く生存するのです。
 様々な生物に見られるこの分裂回数の限度を、発見者の名にちなんで「ヘイフリック限界」と言います。ある臓器の中で多くの細胞がヘイフリック限界に達してくると、細胞を分裂によって補うことが困難になることや、この過程が進むとやがて個体の死にいたることは容易に想像できます。
 
 このことは、細胞が自身の分裂回数を記憶していることを意味します。つまりこれは…、
細胞自身が自分の分裂した回数を知っている。
= 分裂の記録が残ってる
= 細胞に不可逆な変化が起こっている
ということを表しています。

この、分裂回数の記録として用いられる、DNAの特別な塩基配列こそSFなどでおなじみの「テロメア」なのです。

遺伝子はタンパク質の設計図である

 あらゆる生命活動に必要とされる物質、生命にとって究極に大切な物質がタンパク質(英語でPROTEIN。PROT-(PROTO-)には、「最初の」「主要な」という意味があります。陽子(PROTON)やプロトタイプ(PROTOTYPE)のPROT-も同じ意味でしょう。それに対して日本語の「蛋白」とは「卵白」という意味で、卵の卵白に多く含まれる物質であるところから付けられた名前です。英語のプロテインの方が、生命にとって第一の重要性を持つ物質であることをうまく表現できています)の基本構造を決める設計図にあたるのがDNAです。DNAを調べれば、その遺伝情報を設計図にして作られるタンパク質がわかり、タンパク質が解ればそのタンパク質をもつ細胞の性質や機能がわかります。だから、分子生物学者たちは躍起になってDNAの情報を調べようとするのです。
 
 DNAは2重らせん構造をとっていて、一方の鎖がもう一方の鎖を力学的に補強すると同時に構造的にももう一方の鋳型となっています。
 大腸菌や乳酸菌など、バクテリアと呼ばれる原核生物は情報保持量を可能な限り減らすことで情報複製の速度を向上させ、すばやく増殖するという戦略で生き残っていました。複製効率を追求した結果なのかどこからでもコピーできるようにするためか、原核生物のDNAを保持する染色体はたった一つとなり二重らせんの端と端がつながった環状構造になっています。

それに対して真核細胞の場合、多くの遺伝情報を保持するためなのか、DNAの保存場所たる染色体は普通複数です。しかも染色体は線状なので構造的に端が存在します。

この「端が存在する」のが真核細胞の厄介なところなのです。この部分は染色体をコピーするたびごとに短縮されていく(50〜150塩基分)性質があります。そこで、染色体の端の部分を保護するための、単純な繰り返し構造の塩基配列をテロメアと呼ぶのです。

このテロメアは、生物の寿命限界の象徴としてSFなどに時々出てきますから耳にしたことのある人も多いかもしれません。次回はついにこのテロメアについてお話していく事にしましょう!

(第7回 終わり 文責:上田@生物)
  
  
From 住吉校の部屋
   

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