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Biological Stories 8

     
第8回 多細胞生物の死は避けられぬ運命 
   
   (第5回)テロメア 〜命の回数券〜
     
 第7回のブログで真核細胞の染色体は線状構造であること、それゆえ端があること、染色体末端では、複製のたびに50〜150塩基分が短くなっていくことをお話ししました。
   
 この事実が実際に発見されたのは1990年代のことです。
    
 さらに後には、様々な年齢のヒト細胞テロメア長を測定して高齢者の皮膚細胞の方が、若年者に比べてテロメア長が短いことも確認されました。
 よってこれらの結果から細胞老化、さらには個体の老化と染色体末端のテロメアの長さが密接な関係にあると考えられるようになってきました。
  
 つまり、真核細胞が一回分裂するたびごとに長さが減少するという性質によって、テロメアは分裂回数を記録する(間接的に細胞が生きた時間を記録する)カウンターとして利用されているということになるでしょう。
    
 テロメアは細胞分裂ごとに短くなる 
    
 ヒト繊維芽細胞を体外に取り出してシャーレで継代培養し続けることにより、テロメアはどんどん短縮していき、ある程度短くなると細胞は分裂を停止します。
 
 この分裂寿命の限界、つまり細胞が老化細胞へと変わる時期を研究者達はM1期と呼んでいます。(このM1期は正常細胞の分裂寿命と考えてください)
 M1期に入った老化細胞の中を調べてみると、細胞増殖にブレーキをかけるタンパク質が発現してきています。
 おそらく正常な細胞にはテロメアが短くなった場合にはM1期で増殖をやめ、それ以上のテロメア短縮をやめさせる機能が備わっているのでしょう。
 
 それに対して遺伝子を外部から導入する、突然変異が起こるなど、なにがしかの手段でM1期を乗り越えた細胞の場合はさらに増殖できます(そして結果的にテロメアはさらに短くなります)。そして極限までテロメアが短縮すると、細胞のほとんどは死滅することになります。
    
 この極限までテロメアが短縮した限界をM2期と呼びます。(このM2期は特殊な形質転換をした細胞の分裂寿命と考えてください)
 その際に染色体を観察すると、染色体末端どうしが融合した染色体(ダイセントリック染色体)など異常な染色体が多く観察されたことから、細胞が生き続けるためにはテロメアが安定に維持されることが必要であると推測されます。
    
 M2期に至った細胞のほとんどは死滅しますが、一部生き残る集団も存在します。
 不思議なことに、これらの生き残った細胞はいくら分裂してもそれ以上のテロメア短縮は起こらず、150回以上分裂可能な不死化細胞になっていました。
    
 細胞の分裂能力が維持されているならば、テロメアの短縮を阻止する何らかの仕組みが存在するはずです。実際、この不死化細胞には正常な細胞と異なるテロメアーゼというテロメアを伸長する酵素が存在していました。
  
 ヒトの体細胞では、通常テロメア−ゼは発現しません。ヒトの細胞内には短くなってしまったテロメアを延長させる仕組みは存在しないのです。
 
 ヒトは特別にテロメアの短い生物である
   
 実は人間のテロメアは特別に短い部類に入ります。この事実のもつ意味を一緒に考えてみましょう。
   
 第7回で「細胞の老化」とは、細胞が分裂できなくなることであることをお話いたしました。
 細胞分裂は、細胞にとって一大イベントです。
 細胞が一度分裂し終わってから、次の分裂を終えるまでの一連の時間を細胞周期と呼びます。この「細胞周期」のうちで細胞分裂の時期をとくに「分裂期」とよび、それ以外の時期を「間期」と呼びます。
    
 「分裂期」は、我々の生活で言えば「引越しの時期」にあたります。
 引越しの時には、普通の生活がストップして家具や荷物を運ぶことしか出来なくなるように、分裂期には普段の生命活動が停止するとともに、内部の構造物が大幅に移動します。
    
 それに対して間期は、われわれの生活で言えば「普段の時期」に相当します。分裂のための準備をするのもこの時期です。
   
 さきほど動物はテロメアを分裂回数のカウンター、つまり生きた時間の目安として使っていると書きました。老化した細胞=長時間生きた細胞ですから、生きた時間に相応しいだけ細胞内にダメージが蓄積していると考えてみて下さい。つまり老化した細胞は人間社会における老人のポジションに近い存在であると考えると・・・。
   
 人間社会においても引越しは負担の大きな大イベントです。これは細胞分裂と細胞の関係に似ているかもしれません。
    
 若い頃ならば、引越しの負担は耐えがたいほどではないでしょうが、年老いてからの引越しは大きな負担です。むりに細胞分裂させれば、長い年月生きて衰弱した細胞を更に痛めつけ、場合によっては死に至らしめてしまうかもしれません。
   
 つまり、「細胞の老化=細胞分裂能力の喪失」には、細胞に無理な負担をかけず保護する役割があると考えてよいかもしれません。
 しかし、それ以外にも理由があります。
    
 細胞構造がダメージを受けていて分裂装置が上手く働かないと、染色体(=遺伝情報)の一部が失われるかもしれないのです。
    
 もしも、これが失われたらどのようなことになるのでしょうか?
 次回はそれについて考えていきましょう。
   
(第8回 終わり 文責:上田@生物)
   
  
From 住吉校の部屋
  

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