Biological Stories 15
第15回 なぜ紅葉し落葉するのか
(第2回)植物は食べない(2)
前回、植物は有機物(生物体を構成する大きな分子)を吸収できないという話をしました。では、どのような物質なら吸収できるのでしょうか?
それは二酸化炭素や水・アンモニウムイオンや各種金属イオンなどの無機物です。
炭素を含まない分子(二酸化炭素等は例外的に無機物扱いする)や生命の介在なしに存在する小さな分子を無機物と呼びます。
つまり、植物は生きた生物や死体を構成している物質は利用できないのです。
ではどうすれば植物は肥料に含まれる物質を利用できるのでしょう?
菌類と細菌類 〜カビ・キノコとバクテリアの役割〜
カビや細菌にはとても嫌なイメージがあります。実際、カビの生えた食物を食べて病気になってしまうことも多くあります。
しかし、自然界でのカビやキノコの役割は、病気を引き起こすことではないのです。
教科書的にはカビ・キノコの仲間や細菌類は,生態系における役割をもとに「分解者」と呼ばれています。生物体や生物の作り出した有機物を分解して物質中のエネルギーを取りだす生物の総称です。
もっと具体的に言えば,生物中の炭水化物・脂肪・タンパク質等を二酸化炭素・水・アンモニアに分解して化学エネルギーを取り出しているということになります。
そう,つまり肥料として用いられる死体・枯死体・排泄物は動物における食物のように体に直接取り込んで利用される物質ではないのです。
肥料となる物質は一度「分解者たち」によって無機物にまで分解されなければ,植物にとっては存在していないも同然なのです。
つまり肥料は,カビ・キノコやバクテリアに無機物(特にアンモニア)を作り出してもらうための材料ということになります。
ここまで読み進めて,「では肥料に生物系の素材を使う必要はないのでは?」
と思われた方。・・・なかなか鋭い知性の持ち主だと思います。
実際,現在では「化学肥料」としてアンモニウム塩(アンモニアを水に溶かしたとき生じるイオンを生成する物質)などを主成分とする生命をまったく介さない肥料がたくさん利用されています。
植物にとって窒素は最重要元素
動物は無機物から有機物を合成することが出来ないので,体の構成材料もエネルギー源もともに他の生物が作り出した有機物を利用せざるを得ません。
それに対して植物は,他の生物の合成した有機物をまったく利用できないので,生命活動に必要な物質は全て自力で合成することが必要となります。
有機物のうち炭水化物と脂肪は,(植物にとっては)わりと手軽に合成できる物質です。これらの構成元素は水素・酸素と炭素であり,いずれも光合成で利用する材料の二酸化炭素と水に含まれています。
しかしタンパク質は植物にとってはかなりの貴重品です。
タンパク質には上記三元素以外に「窒素」が含まれているからです。
窒素?
空気の78%を占める窒素の何が貴重なのでしょう? 空気にわずか0.04%しか含まれていない二酸化炭素さえ吸収できる植物にとって,窒素のほうが余程ありふれているのでは?と思われるかもしれません。
しかし,植物は空気中の窒素を利用できません。あくまで土の中にイオンや塩の形で存在する「窒素」しか取り込めないのです。
しかも窒素を使って作り出す有機物は植物にとって重要なものばかりです。生命の化学全体を支配する酵素(タンパク質)や,遺伝情報であるDNAやRNAなどの核酸,光合成色素であるクロロフィルまでも窒素を含む有機物なのです。
つまり土壌に死体・枯死体・排泄物などが存在し,その中に含まれるタンパク質・核酸・クロロフィル・尿素などの有機物が菌類や細菌類によりアンモニアにまで分解されてはじめて植物は窒素を吸収できるのです。
つまり,「肥料をあたえる」とは人間の手で土壌中のアンモニアの材料を増やすという意味を持つ行為だったのです。
(第15回 終わり。 文責:上田@生物)
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