Biological Stories 17
第17回 なぜ紅葉し落葉するのか
(第4回)生き残るため葉を落とす
植物にとって,最も生存が厳しい季節はいつだと思いますか?
冬ですか? ほぼ正解です!
確かに日本では「冬」は最も厳しい季節です。・・・しかし完全解答とはいえません。実は植物にとって冬よりも厳しい季節が存在するのです。
光合成には光,適切な気温,そして水が必要である事はご存じかと思います。
冬は日照量が減り気温が低下しますから光合成速度も低下します。これは生命活動のエネルギーを合成する能力の低下を意味しますから,我々の生活に置き換えると月収が低下したような悪影響があります。
・・・月収が低下するとじわじわと生活(生命活動)が弱っていきますが,即死はしません。
それに対して水が不足すればどうなるでしょうか。
水道を止められた状況を想像してみてください。・・・おそらく即死でしょう。
普通の生物は、ある程度ならば食事抜きの環境にも適応できますが、水分不足に対しては為すすべがありません。
気温や日照量とくらべると意識されにくいですが,実は降水量も年周期で変動しています。
一年のうち降水量の多い季節は「雨季」と呼ばれ,降水量が少なく乾燥している季節は「乾季」と呼ばれています。日本では「冬」が乾季も兼ねています。(世界中の全ての地域で冬が一番乾燥しているわけではありません。たとえばヨーロッパなどは夏が一番乾燥しています)
生物は乾燥に弱いので,「乾季」は冬と同じかそれ以上に「死の季節」ということになります。
動物であれば水を求めて移動できるかも知れませんが,植物は動けません。つまり,植物が乾季を迎えたとき「次世代を残して親個体は死ぬ」か,「徹底的に水分を節約することで生き残る」の二つしか選択肢がないことになります。
乾季を迎えたとき「次世代を残して死ぬ」戦略は,砂漠などの極度の乾燥地に生育する植物によく見られます。少々水分を節約したところで生き残れないほどこれらの地域の乾燥は厳しいからです。
毎年乾季が来るたびに種子を残し,本体は枯れてしまうので,砂漠には一年ごとに枯れる草しか生えないことになります。(サボテンほど徹底して水分を節約する植物なら砂漠でも長期間生存できます。しかし一部の砂漠にしか生えていませんし植物としてはかなり特殊です。ですのでサボテンについては後日別の項でお話しすることに致しましょう)
それよりも乾燥の穏やかな地域では,植物は水分の損失量を減らすことで生存しようとします。
具体的には水の出口をふさいでしまうのです。
最大の排水器官である葉がなければ,水の損失はぐっと抑制できます。
東北地方の木々は冬に葉を散らす
光合成の速度は,光の強さ,温度,二酸化炭素濃度によって決まります。東北地方のように気温が低い地域だと,冬は効率的に光合成できません。
となると東北地方の場合、冬に葉をつけておくのは水の損失を増やすばかりでほとんど意味が無いということになります。
それゆえに乾季が始まる直前,すなわち秋の終わりごろに葉を落とすのです。
また,南アジアのモンスーン地帯のような雨季と乾季のはっきりした地域でも,乾季には葉を落とします。(この地域に成立する森林は雨緑樹林と呼ばれます。乾季には葉が全部落ちてしまっているため木肌色の森だったのが、雨季には葉が再び生えてくるので緑色に見えるからです)
ところが関東以南では、冬でもある程度暖かいので光合成を行うことが出来ます。ですから関東以南の森は一年を通じて緑色の葉をつけ続けます。
このように東北と関東以南では葉を利用する期間が違うため、葉は構造そのものが違っています。
東北地方の森の葉は半年限りの使い捨てなので、薄くて安っぽい構造です。
それに対して関東以南の葉は数年間使い続ける(=冬を越す)ので、冬場の乾燥に対応した構造をもっています。具体的には葉の表面を分厚いワックス層が覆い、葉そのものも肉厚で耐久性の高そうな構造になっています。
関東以南の森が「照葉樹林」と呼ばれるのは、ワックスでコーティングされた葉の表面が光を反射するために葉が輝いて見えるからなのです。
しかし、安っぽいつくりとはいえ東北地方の森の木々が葉を毎年捨ててしまうのはもったいなくないのでしょうか?
次回は落葉についてお話しすることに致しましょう
(第17回 終わり 上田@生物)
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