Biological Stories 22
第22回 女性が進化の方向をきめる?(2)
さて今回は有性生殖のパートナーを選ぶメカニズムについて考えてみたいと思います。
動物はみな子を作りたがっています。もし仮に子孫を残すことを邪魔する遺伝子があったとしたら、その遺伝子を受け継いだ個体はうまく子孫を残せません。よってそのような遺伝子が代々伝わることは非常に困難でしょう。この地上に生きている生物は、例外なく積極的に子孫を作ろうとした生物たちの子孫なのです。
そして子孫を作る以上はできる範囲で優れた遺伝子の持ち主と遺伝子を混ぜ合わせることを望んでいます(たとえ本人?が意識していなかったとしても、「本能」として優れた遺伝子の持ち主をえらぶ行動が遺伝的にプログラムされています)。ただ両性の配偶子(卵と精子)は製造数がまったく異なるため、両性の配偶者選択の仕方には明らかな違いがあります。
メスは卵に栄養分を注入する必要があるため、オスほどたくさんの配偶子を作ることはできません。それに対して精子は大量生産が可能なので条件が許せば大量の卵を受精させることができます。つまり、オスの作る配偶子のほうが数が圧倒的に多く、いってみればオスの配偶子が常に余っている状況にあります。
よってメスの配偶子のほうが相対的に貴重品ということになり、オスたちは少数の卵を巡って争う立場にたたされます。つまりメスは貴重な卵をどのオスに託すか選ぶ態度をとり、オスは選ばれる立場であると同時に(仮に多数のメスの好意を集める立場にある場合なら、配偶子の数に余裕がある分)来る者は拒まずという態度をとることになります。
結果的にメスの配偶者選びは質を重視したものになり、オスの配偶者選びはある程度質も考慮しつつ、どちらかといえば量を重視した(何でも来いともいう)傾向をもつのです。
ところで「優れた遺伝子」とは具体的にはどんな遺伝子なのでしょうか?
・・・筋肉が発達している。大きな体格を持つ。大きな脳を有し高い知能を持つ。優れた消化器官をもつ。優れた免疫能を持つ。
優れた資質としてはいろいろなものが挙げられます。
これら全てを兼ね備えるのは無理です。ではこれらのうちでどれが最も重要なのでしょう?
・・・いえ神ならぬ身では、どれが重要であるか決めることなどできません。そもそも壊れてまともに働かない遺伝子を除けば、どんな環境でも最適な働きをする絶対的に高性能な遺伝子などありえないからです。
十分な餌のある環境下では大きな体格・大きな脳・強靭な筋肉は有利に働くでしょう。しかし滅多に餌が見つからない環境下では、エネルギーの消費量の大きい脳や筋肉、そして大きな体格は餓死の可能性を高める危険な因子となります。
あるいは致死的な伝染病Xが最大の死亡原因となるような環境では、他のどのような遺伝子よりも、伝染病Xに対抗できる遺伝子が価値をもつことになるでしょう。
さまざまな環境条件下で、複数の因子を考慮しつつ最善の遺伝子の持ち主を選び出すとは・・・、なんと生物は優れた判断力を持つのでしょうか。
・・・などと書いてみましたが、実際はそんなに大変な判断を行っているわけではなりません。
たとえば非常に流行し重篤な症状を持つ伝染病Xに対し、全く抵抗できない個体A、少々対抗できる個体B、完全に抵抗できる個体Cがいるとします。
個体Aはそもそも生殖できる年齢まで生き残れないでしょう。個体Cは伝染病の影響を受けず健康そのものです。
個体Bは生存しているでしょうが、伝染病の病原体に対抗するために体力を使ってしまい個体Cほどうまく成長できず均整の取れた体を作り上げることができていないかもしれません。
あるいは仮に餌が豊富にある環境条件があったとしても、強靭な筋肉と優れた頭脳のどちらを持つことでよりうまく餌をとる事ができるか事前に予測する事は困難かもしれません。
しかし、どんな遺伝子をもっているか不明だったとしても、成長し完成した体を見れば、(それがたとえどの遺伝子がうまく働いたのか全く分からなくても)遺伝子が全体としてうまく働いたか否かがたちどころに分かるはずです。成長した体そのものが、遺伝子の性能をあらわす成績表としての働きをもつのです。
つまり見た目を基準にしてトータルで優れた遺伝子の持ち主かを判断する繁殖戦略をとることが、結局は子孫に優れた遺伝子を伝えることになる・・・。
生物学ではこのような繁殖行動は「性選択」と呼ばれます。
学生が、普段の学習の量と質を「教師」に試される機会は「試験」です。
それに対して生物が「遺伝子と生きてきた履歴の全て」を「異性の同種個体」に試される機会が「生殖」なのです。異性に選ばれるに足る生き方ができなかった個体は、その遺伝子を子孫に伝える機会を失うのです。
そして、「生殖」という試験において、採点官の役割は(多くの場合)メスが担うことになるでしょう。
なぜなら、オスは現れた全てのメスと子孫を作ろうとする傾向があるので不合格の基準値が低くなりがちであるのに対し、メスは求愛してくる複数のオスから最善の一個体を選ぶ傾向があるので、うまく働かなかった(環境に適応できなかった)個体の遺伝子を未来へ伝えないという役割を果たすからです。
生物の世界ではオスは常に選ばれる立場です。その様子はまるで商品のようです。
消費者(メス)に認められたオスの遺伝子はまるでヒット商品のようにどんどんと広く選ばれてゆき、認められなかったオスの遺伝子は売れなかった商品のように市場(種全体の遺伝子プール)から排除され、時間とともに消えていってしまうと・・・。
以上の考察をふまえて、次回は本来なら生存に不利になるはずのクジャク(オス)の長くて美しい尾羽について考えていきたいと思います。
(第22回 終わり。 上田@生物)
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