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Biological Stories 23

      第23回 女性が進化の方向をきめる?(3) 

 前回、「オスはまるで商品のように選ばれる立場である。消費者(メス)に認められたオスの遺伝子はまるでヒット商品のようにどんどんと広く選ばれてゆき、認められなかったオスの遺伝子は売れなかった商品のように市場(種全体の遺伝子プール)から排除され、時間とともに消えていってしまう」という話をしました。
  
 ところで、体長と体重が同じくらいで、しかも外見からはすぐに分かるような異常が見られない雄個体AとBがいるとします。この2個体が内に秘めた能力は同じでしょうか?
   
 ・・・きっと、どこかしら異なることでしょう。
 では、体長と体重以外で生存能力の高さをメスに訴えることはできないものでしょうか?
 一番完璧な方法はオスA・Bと一定期間ずつ一緒に暮らしてその両者の生存能力をじっくり観察してみる事でしょう。
 これなら、絶対に間違えることはありません。
   
 ・・・冗談です。ごめんなさい。これは実現不可能ですね。求愛者が現れるたび一緒に暮らしていたら体がいくつあっても持ちません。
 もっと短い時間で判断できるような基準があればよいのですが・・・。
  
            同性内性淘汰
   
 ひとつめの方法として、「求愛してくる雄同士で予選を行わせ、最後まで残った求愛者をメスが受け入れるかどうか決断する」という「コンテスト方式」が考えられます。
 上手に生活できない個体は体作りがうまくいかず、結果としてケンカにも弱くなってしまうと考えられますから、ケンカが強いことを基準にオスを選べば、おそらく優秀な遺伝子の持ち主を選ぶことになると考えられます。
 この場合、体がおおきくケンカに強い個体が闘争に勝つことになり、結果的にそのようなオスはたくさんのメスと交配してたくさんの子孫を残すことになります。
 この同性内性淘汰は一般に、一夫多妻の程度が大きい種において強く働く傾向があります。たとえば、アザラシの仲間では一夫多妻の程度が大きい種ほど雌雄の体格差が大きくなる現象が見られます。
 大体において、メスの体の大きさというのは、その生物種が生きていくための最適サイズであることが多いのです。
 よって、オスがメスに較べて極端に大きい場合、その種ではメスをめぐってオス同士で闘争していると推測できます。
  
            異性間性淘汰 
   
 それに対してオス同士が闘争を行わない場合、あるいはメスが強く選り好みをしてオスを選ぶ場合、メスに好まれるかどうかが子孫を残せるか否かの決め手になります。
  
 ちょっとここで思考実験をしてみましょう。
   
 話は全く変わりますが、僕はスポーツがほとんど分かりません。ですからサッカーの試合を見ても、どの選手がよい選手でどの選手がイマイチなのかほとんど判断できません。
 さてこんな僕が、ワールドカップの日本代表選手を選ばなければならなくなったとしたらどうでしょう?
 ・・・そうです。きっとうまく選ぶ事ができず、運任せのチーム編成になることでしょう。これでは勝ち残れるとは思えません。
 しかし、たとえば背中に重さ20Kgの甲羅を背負った選手がいたとして、彼が他のプレイヤーと全く同じ動きができたとしたら、僕は背負った重荷を見ることでその選手がスゴい選手なのだと一瞬で理解することができます。あるいは別の選手は30Kg、さらに別の選手は40Kgを背負っていたとしたら・・・。
 こうなれば背中に背負った重荷の大きさを目安によい選手なのかどうかを判断することができるのです。
  
 能力を発揮するのに邪魔になるようなものを身に付けてなお、通常の活動ができるならば、それは大きなハンデキャップを身に付けていてなお生存できるという優秀性をあらわすことになるのです。
   
 クジャクなどの鳥の長い尾は非常に目立つため、明らかに生存に不利です。
ですから、古い生物学ではクジャクの長く美しくよく目立つ羽は説明のつかない謎の存在でした。無駄なことを行う生物は生存競争に勝ち残れず進化の世界から退場してしかるべきはずなのです。
 にもかかわらずそのような生物が地球上に存在している事は、「異性間性淘汰」の視点を導入して初めて説明できる現象です。
  
 実際、クジャクの場合、オスは配偶行動を行った後、メスの子育てを一切手伝いません。オスは単なる遺伝情報の提供者であってそれ以上でもそれ以下でもないのです。
  
 オスの尾羽が長く、そこにある美しい目玉模様の数が多いほど配偶行動の成功度があがる(要するにモテる)ことになります。
 しかし、その代わりにメスと交尾するまで生き残れる確率は低下していまいます。
 死んでしまえば子孫に遺伝子を伝えることはできません。しかし、メスに選んでもらえなくても子孫に遺伝子を伝えることができないのです。
 自然界に存在する美しく装う生物(ほとんどがオス)は、死んでしまうギリギリまで美しく装うことを運命付けられているのです。
   
 オスとは悲しい生き物ですね・・・。女性の皆さん、もしあまり好みで無い男性から求愛を受けそれを断る機会があったら、ぜひ、このことを思い出して男性という悲しい生き物のことを、少しでも哀れんであげてくださいね。
   
 (追記)
 もしクジャクのオスが子育てを少しでも行う種だったとしたら、ここまで美しくなることができたか少し疑問に思えてきました。オスがメスと1対1のカップルを形成して全力で子育てを誠実に行うオスがメスに好まれる様な状況下では、オスはメスを1個体確保できれば充分で、それ以上多くのメスと子供を作るのは体力的に不可能でしょうから。
   
 となれば、オスが子育てを手伝わなくてもメスだけで充分子供を育てきれる状況下では、メスは見た目の好みだけでオスを選ぶことが許されるようになり、メスだけではとうてい子育てがまかないきれない状況下では、オスの外見より誠実さの方がはるかに重要になってくるというわけですか・・・。奥が深いですね・・・。安易に人間社会に置き換えて考えるといろいろ問題がおきてしまいそうです。・・・ちょっと恐ろしくなってきてしまいました。今日はこの辺に致しましょう・・・。
   
(第23回 終わり。 上田@生物)
  
  
From 住吉校の部屋 

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