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Biological Stories 28

 
          第28回 女性が進化の方向をきめる?(8) 
   
 前回、Y染色体は小さく、しかも遺伝子数が異常に少ないことをお話しました。
 このY染色体のもつ遺伝子数の少なさが、男性の寿命の短さの根本原因と考えられます。
 今回はここからお話していきましょう。
   
 全ての生命の先祖は海で生じました。その子孫達の一部はのちに陸上に上がってきました。それは植物たちも同様です。
   
 陸上は海中に較べ過酷な世界です。
 陸上は常に水不足であり、しかも極端なまでに環境が変化します。浮力が体を軽くすることもありません。そのため、乾燥から身を守るための皮膚や重力に抵抗するための丈夫な四肢、あるいは外部環境に抵抗するための内臓諸器官が完璧に機能しなければ生きることも難しいほどの過酷な世界です。
   
 内臓諸器官の構造は複雑なため、それらを作り上げるための遺伝子や維持しつづけるための遺伝子のひとつでも働かなければ、生物体にとって致命的な悪影響が現れることでしょう。
   
 さて、生物たちが陸上に上がるとき、全ての遺伝子を2セットずつもつような体に進化しました。(あるいは、同一遺伝子を複数もつ生物の子孫だけが陸上で生き残り、そうでない生物の子孫は死に絶えたというべきでしょうか。)それは過酷な陸上世界に適応するためと考えられます。
 単に「生きている」だけでよいなら、少しばかり体の性能が悪くても問題ないのかもしれませんが、生物の世界は仏教の「修羅道」にも似た、生きることと戦うことがほぼ同じ意味を持つ世界なのです。
 大多数の生物にとってこの世界は体を構成する全ての仕組みが完璧に動作してなお、長く生きることが困難な世界なのです。まして体のどこかに不調を抱えた生命体が、いったいいつまで食い殺されずに生きていけることか・・・。
    
 我々はこの過酷な陸上に生きる生物であり、一部の例外を除いてほとんど全ての遺伝子を2セットずつ(遺伝子によってはさらに多数を持つ場合もあります)もっているのです。
    
 ところで、Y染色体は個体を雄にする以外これといった働きをする遺伝子をもたない染色体です。それに対してX染色体には重要な機能をもつ遺伝子が数多く、常染色体と同様に生命にとって重要な意味を持つ染色体です。
   
 さて、女性であればX染色体を2セットもちますが、男性はどうでしょうか。
   
 そう・・・。男になるために必要な遺伝子が載っているとはいえ、ほとんど中身のないY染色体をもってしまったためにX染色体上にある遺伝子に関しては1セットずつしか持てなくなってしまったのです。
   
 通常、遺伝子は父由来のものと母由来のもの2セットを持っているわけで、そのうちのどちらかの遺伝子が機能しなくても、もう一方からの遺伝子が働くことで生命に致命的な悪影響が出ないようにしています。
 しかしX染色体上に存在する遺伝子に欠陥があったとき、男性にはどのような事が起こるのでしょうか・・・。
   
   
 話は全く変わりますが、筆者は大学では応用化学を学びました。生物系に転向したのは大学院から後の話です。ですからもし運命のふるサイの目がほんの少しちがう値を示していれば、化学の講師としてこのブログを連載していたかもしれません。
   
 ところで化学は徹底的に実験を重視する学問なので、理論と同じほどに実験のやり方や器具の扱いかたの注意も受けました。
 その中に「ガラス管の折り方」というものがあったのを記憶しています。
   
 傷一つないガラス管は、そう簡単には折れません。
 力任せに折ってしまうことも可能ですが、強い力が必要な上に、非常に危険です。
 そのため切断の必要がある場合、そのまま折ったりせず必ずちょっとした操作をします。
    
 その操作とは・・・。小さなヤスリでガラス管に浅い傷をつける事です。
    
 小さな傷ができれば、その部分の強度は周囲より劣ることになります。
 すると外圧がかかったときにその部分に重点的に力が作用することになり、たいした力がかからないうちに傷のところからパッキリ折れることになります。
   
 わずかに劣った部分があると、そこから破綻が起こる・・・。
   
 どうでしょう?我々の生命もそれに似たところがあると思いませんか?
    
 全ての部分が完璧に機能してこそ強靭でいられるものの、一箇所が破綻すれば全ての破綻につながる。
 男性はX染色体上に存在する遺伝子を1セットずつしか持たないがために、唯一の遺伝子に何かあればすぐさま破綻する体になってしまった。
   
 男性の生命のもろさは、破綻が起こったときにそれを補う能力の弱さが原因なのではないでしょうか?23組の染色体のうちわずか1組の染色体を、ひとつ持つかふたつ持つかが、男女の寿命に7年もの大差をつけてしまったのです・・・。
   
   
 男性にいったいいかなる罪があって、人生を7年も縮められる罰を与えられねばならなかったのでしょうか?
 次回は「Y染色体に潜む姉妹殺し遺伝子」仮説について考えていきたいと思います。
  
   
(第28回 終わり。 上田@生物)
  
  
From 住吉校の部屋
    

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