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Biological Stories<第51回>

第51回 妖精がくれた金属
 
 とうとう市道先生の「砂糖と塩を区別できるか 【特別編1】」が研伸館ブログに登場しました!皆さんお楽しみ頂けましたか?
 
 この研伸館ブログでは受験情報や教室からのお知らせなどの実用的な情報の他に、教養系情報として硬派な英語の情報と(私上田の)くだけた科学系エッセイが発信されておりました。
 市道先生のエッセイはちょうどその両者の中間くらいの硬派度で、化学的な知識にふれつつ実際の入試問題への応用を図るという贅沢なものになっております。もし見落としておいででしたらぜひスクロールバーをぐっと下げて、市道先生の傑作エッセイをご覧下さい。
 ところで硬派でない私の方は、本日もゆるーく科学と関係した雑学をお話ししていきましょう(笑)。
 
 さて巷では、某大作コンピュータRPGの発売が話題になっているようです。帰宅路にある某レンタルビデオショップの店先に発売日を知らせる派手なのぼりが立っておりました。
 ところで、こういうゲームってまだ売れているのでしょうか?
 …店頭で宣伝するほどですからきっと結構売れているのでしょうが、すっかり縁遠くなってしまい、もう、何がどうなっているのかわからなくなってしまいました。
 しかし高校・大学とそのゲームで遊びましたので、今でも続編が発売されつづけているのを見ると、なんとなく感慨深いものがあります。
 
 ・・・で、今回のエッセイの題材はそのゲームの最序盤に登場する細胞性粘菌そっくりのアイツ(アレはタマネギのモンスターではないのです。なにせ半透明・不定型で動き回りますから)ではなく、いろんなファンタジーゲームの世界で雑魚モンスター扱いされているとある妖精の話なのです。
 
 悪い妖精ゴブリン
 
 我々が目にするファンタジー(ゲームを含めて)は中世ヨーロッパの民間伝承などが題材なので、中世ヨーロッパの人々が信じた妖精たちがずいぶん登場します。
 中世ヨーロッパの世界観によれば、世界は魔法に満ちていて不思議(理不尽)なことはみんな魔法的なものとされていました。
 …本当は科学や科学的な考え方が未熟だったので、日常的な直感で理解できないことはみんな魔法のせいにして思考を停止していたという方が近いのですが…。
 ことに日常我々が経験するちょっと理不尽な出来事は、みんな妖精が引き起こしていると考えられていました。妖精はどこにでもいる超自然的な存在でたいして害はないけれどちょっと小うるさい存在と考えられていたようです。日本人が妖怪に対して持っていた感覚と、ちょっと似ているものがあるかもしれません。
 その妖精たちのなかの性格の悪くていたずら好きのものはゴブリン(goblin)と呼ばれていました。このゴブリンはよほど広く信じられたようでボーギー、ボーグル、バグ、バグベアー、プーカ、ホブゴブリンなどと土地によって少しずつ呼び名は違いますが、ヨーロッパ全域に伝承が広がっています。ちなみにプログラム上のちょっとしたミスを指す呼び名である「バグ(bug)」はもともとはうっとおしい「小虫」を指す言葉だという事はよく知られていると思いますが、さらに語源をさかのぼると、ゴブリンを指す言葉であるバグにつながってくるのです。
 
 このゴブリンは特に鉱山関係者に恐れられたようです。
 
 錬金術
 
 ここで少し話を変えて錬金術について…。
 科学と魔術の境界が明確でなかった頃、化学反応と魔法には区別が有りませんでした。
 そもそもヨーロッパ化学の源流のひとつが錬金術(卑金属を貴金属へ変化させようとする魔法的技術)にあると考えられている程です。
 錬金術の究極の目的は、酸化物(さび)や酸化物の混合物である鉱物から、化学的な手段を用いて金属結晶を取り出すのと同様な手段を用いて、卑金属の鉱物や非金属の金属結晶を貴金属の金属結晶へ変化させる事です。
 全く光らず(さびには金属光沢がない)、もろく(さびには延性・展性がない)、熱を伝えにくい(さびは熱伝導性が低い)「さび」に簡単な操作を加えるだけで光り輝く金属を作り出す事が出来るならば、既に光り輝き金属特有のねばりを備えた一般的な金属結晶に独特の輝きを与えて金へ作り替えることもちょっとしたコツを見つければ出来るだろうと彼らは信じたのです。
 
 しかし、もう皆さんご存じでしょうか、一般的な金属を金へ変化させることは出来ません。鉄、スズ、鉛、亜鉛そのどれをとっても物質を構成する基本粒子である原子の構造そのものが違っているのです。
 これらを金へと改変するには、原子核の内部構造を作り替える必要があります。
 我々の知る化学反応は原子内の電子配置に影響を与える操作であり、化学反応で出入りする規模のエネルギーでは、原子核の内部に影響を与えることは出来ないのです。
 原子核そのものを改変する様な反応は「原子核物理」で扱うことになります。
 
 …話を戻します。
 中世ヨーロッパでは金属元素を「ちょっとした魔法」で他の元素に転換することが可能であると信じられていましたので、価値のある金属も悪い妖精の手にかかれば価値の乏しい金属に変えられてしまうと信じられていました。
 命がけの重労働で坑道を掘り抜き、必死で地上に持ち出した鉱物なのにその中に役に立たない金属しか含まれていないとなれば、失望の度合いは測りしれません。
 
 そういう意味でゴブリンは鉱山関係者に恐れられたのです。
 
 ゴブリンとコバルト
 
 このゴブリンのうち鉱山に出現する亜種は「コボルト」と呼ばれていました。
 wikipediaから「コボルト」の記述を引用してみましょう。
 
 ↓引用ここから――――――――――――――――――――――――――――――
 
 コボルト(Kobold, kobalt)はドイツの民間伝承に由来する醜い妖精、精霊である。 コーボルト、コボルドとも表記する。コボルトはドイツ語で邪な精霊を意味し、英語ではしばしばゴブリンと訳される。
 
 (中略)
 
 最も一般的なイメージは、ときに手助けしてくれたりときにいたずらをするような家に住むこびとたちというものである。彼らは家事をしてくれたりもするが、住人の人間にいたずらをして遊んだりもする。もうひとつあるコボルトのイメージは、坑道や地下に住み、ノームにより近い姿である。
 
 ↑引用ここまで――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 この「コボルト」名前、何かの元素に似ていませんか?
 そう、コバルトブルーで有名なあのコバルトは、鉱山に出現する邪悪なゴブリン「コボルト」の名からとったものだったのです。
 
 コバルトの名の由来について、再度wikipediaから引用してみましょう。
 
 ↓引用ここから――――――――――――――――――――――――――――――
 
 アクセル・クロンステット(Axel Frederik Cronstedt)が1751年に単体分離。名称はドイツ語のKupfernickel (悪魔の銅)に由来する。これは、ニッケル鉱石が銅に似ていながら これから銅を遊離できなかったために、坑夫達がこう呼んだためと言われている。
 
 
 1737年 、ゲオルグ・ブラント(Georg Brandt、スウェーデン)により発見。コバルトという名称と元素記号は、ドイツ語で地の妖精を意味するコーボルト(Koboldまたはkobalt)に由来する。コバルト鉱物は冶金が困難なため、16世紀頃のドイツでは、コーボルトが坑夫を困らせる為に魔法をかけたものとされていた。
 
 ↑引用ここまで――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 引用文にもあるように、コバルト鉱石は見た目が銅鉱石に似ているにもかかわらず、銅が含まれていないことで憎まれたのですが、もうひとつ厄介な性質がありました。
 
 コバルトの鉱石には猛毒の砒素が含まれることが多かったそうで、処理が相当危険だったようです。
 
 次回はニッケルと妖精についてお話いたしましょう。
  

(Biological Stories<第51回>終わり。文責:上田@生物)
  
  
From 住吉校の部屋
 

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